認知症の人に嘘をつくのに罪悪感がある方も多いでしょう。大切なのは相手を安心させる「寄り添う嘘」であるということです。どんな声かけをすると効果的でしょうか。
認知症は忘れる病気
認知症の方を介護されているご家庭では、介護者が振り回されたり、問題がこじれたりすることがあるでしょう。これは、認知者への理解不足が原因であると言えます。
認知症とは一言で言えば「忘れる病気」です。私たちは生まれた時から新しいことを知識や経験で増やしていきますが、認知症は記憶の中から新しい記憶や体験がこぼれ落ちている状態です。
数秒前の出来事さえ覚えていないのに、数十年前の出来事は覚えていることがあります。新しい記憶は抜け落ち、古い記憶だけが残り、これらが言動として表れやすくなります。
嘘をつくのは共に生きるための知恵
認知症の人は一度決めると、いくら説得しても聞き入れてはくれません。しかし、本人が納得すれば、すんなり動いてくれて心も穏やかになることがあります。
嘘をつくことは人を欺くことであるため罪悪感を感じるかもしれません。しかし、認知症の人の命や生活を守るために「寄り添う嘘」というのが必要になってきます。本人が傷つくのでは思い、どうにも出来ずに困っている介護者も多いと思います。
ですが、認知症は「忘れる病気」であることを頭に入れておいてください。時間がたてば忘れてしまうので、傷つくこともないでしょう。
スエーデンでは合理的な介護技術として嘘を勧めています。感情的に嘘をつけない人もいますが、共に生きる知恵であると考えましょう。嘘の奥にある思いやりや愛情があるかどうかが大切なのです。
実際に効果のあった声かけ
それでは、実際にあった声かけの話をみていきましょう。
- 元教授の男性場合
まだ現役のつもりで出勤する出迎えの車を待っていました。家族がデイサービスの利用を勧めても断固拒否します。そこで、デイサービスの車を向かわせて「先生、教授会のお車です」というと、すんなり乗車しました。以来、男性は「教授」として通い続けています。
- 認知症の人が譲らないときは介護者が頭を下げる
食後に「ご飯まだ?」と聞かれ、「さっき食べたでしょ」と言い返す、よくある場面の場合です。食べ終えた食器を見ても認めない人もいます。その際は「ごめんね。炊飯器のスイッチを入れるの忘れちゃった。少し待ってね。」と謝ると素直に待ってくれるはずです。忘れる病気なので、再び聞かれることもありますが、同じ答えを繰り返しましょう。
- 昼夜逆転
認知症の人によくある昼夜逆転。真夜中にかばんを持って「会社に行く」という場合は無理に引き止めても無駄です。このようなときは「今日は日曜日ですよ」と伝えます。日曜日というのは休みだと身体に刻まれているので、休もうと考えるはずです。「北風と太陽」の物語のような知恵が大切です。
- デイサービスの食事を断る
デイサービスの食事を断る女性がいました。これは、幼少期に「他人の家の食事時は欲しそうにせず、席を外しなさい」と厳しくしつけられていたためです。そこで、施設で作った料理を弁当箱に詰め、家族が持ってきたと伝えると喜んで食べました。相手の価値観を考えて、どう寄り添うか考えることが鍵となります。
- 寒いのに部屋に入ろうとしない
真冬に寒い場所で立っている女性に部屋に入ろうと説得しても動こうとしません。よく見ると女性はタオルのようなものを抱えて、それが赤ちゃんのように見えました。そこで、「部屋に行かないと赤ちゃんが風邪を引きますよ」と声を掛けると笑顔で部屋へ入りました。正論を言うのはざるに水をためようとするのと同じです。説得より納得してもらうことが大切です。
まとめ
- 認知症は忘れる病気である。数秒前のことは覚えていなくても数十年前の記憶が言動となって現れる。
- 嘘をつくのは共に生きるための知恵であり、罪悪感を感じることはない。
- 上手に声をかけることで納得してくれる。
ますます高齢化する社会で認知症は避けて通れない問題です。介護する人の負担を少しでも減らすために「説得」ではなく「納得」させるための「寄り添う嘘」が必要不可欠なのではないでしょうか。